アートのひみつ!
いつもの見なれた場所にアート作品がやって来た。作品はデザインされた新しい風景(ランドスケープ)といっしょにその場所とむすばれているよ。見て、歩いて、みんなもランドスケープの一部になったり、通学路の景色を楽しんでみよう。
Q1. イースト・ロンドン大学の大学院にいらした時に廃墟を研究されていたそうですが、その経験は今回のプロジェクトにもつながっていますか?
武田さん:はい。私は学生時代にイギリスやイタリアで廃墟や遺跡を研究していました。廃墟の魅力は、もともと人のためにつくられた建築が、時間の経過とともに植物や生き物の居場所へと変わっていくことにあります。
建築は完成した瞬間がゴールではなく、いずれ風化し、周囲の環境と関係を結びながら変化していく存在です。今回のランドスケープも同じ考え方で設計しています。植物が育ち、土の表情が変わり、時間とともに風景が成熟していく。その変化も含めて作品の一部として捉えています。
Q2. 今回のランドスケープデザインでは、どのようなことを大切にしましたか?
武田さん:今回の敷地は傾斜が大きく、車両の乗り入れも難しい場所でした。一般的には建築や農業などへの活用が難しい、いわば「余白」のような土地です。しかし私は、そのような場所だからこそ新しい価値を生み出せると考えました。
このプロジェクトでは、アート作品を置くための背景をつくるのではなく、作品と土地が一体となって存在する環境そのものを設計することを目指しました。単に緑を植えるのではなく、アーティストの意図を受け止めながら、作品が風景の中に自然に溶け込むためのフォーマットを考えています。
Q3. 今回の環境設計で「土」をテーマにした理由を教えてください。
武田さん:アート作品が風景の中に突然現れると、ときに「UFOが着陸したような違和感」が生まれることがあります。今回はそうした断絶を避け、土地と作品をゆるやかにつなげる媒介として「土」をテーマに選びました。浅井さんや西條さんのランドスケープだけではなく、久保さんの作品の土台も土色で、設置された場所と馴染むように考えられています。
現地の土や石、植栽を用いながら、作品の足元や周辺環境を丁寧に整えることで、作品がもともとこの場所に存在していたかのような風景を目指しています。時間の経過とともに雨や風の影響を受け、さらに土地と馴染んでいくことも想定しています。
Q4. 西條茜さんや浅井裕介さんの作品周辺には、どのような工夫が施されていますか?
武田さん:西條さんの作品はギリシア時代の豊穣の儀式をテーマにしているので、周りに枇杷やみかんなどの柑橘系の植物を入れた果樹園を作ることになっています。古墳や遺跡のような「記憶に残る風景」を意識しながら、螺旋状の動線や石積みを取り入れています。
浅井さんの作品周辺では、植栽や土の構成によって大地とのつながりを強調しました。また、このお椀上のランドスケープの表面には植物が生える予定になんです。 これらは、作品単体ではなく、植物や微生物、水の流れまで含めた環境全体が作品体験の一部になることを目指しています。また、近づいたときの身体的な体験と、遠くから見たときの印象、その両方が子どもたちの記憶に残ることを期待しています。
Q5. 施工において難しかったことは何ですか?
武田さん:最も難しかったのは、アートと建築・土木の考え方の違いを調整することでした。
芸術表現には自由さが求められますが、一方で公共空間では安全性や耐久性が欠かせません。風や塩害などの厳しい自然環境の中で長く作品を維持するため、作家側の専門家と建築側の専門家が何度も協議を重ねました。それぞれの専門性を尊重しながら役割分担を明確にし、安全性と表現性の両立を図っています。
Q6. 子どもたちへ伝えたいことはありますか?
武田さん:私は「原風景」とは、特別な場所ではなく、日常の中でふと心に残る風景のことだと考えています。
子どもたちは毎日同じ道を通りますが、その中で季節の変化や植物の成長、作品との新しい出会いを発見することがあります。そうした小さな発見の積み重ねが、自分のまちへの愛着や豊かな感性を育てていくのではないでしょうか。
この場所が、子どもたちにとっての原風景となり、大人になったあとも心のどこかに残り続けることを願っています。
Q7. アーティストとの初めての協働はいかがでしたか?
武田さん:今回のプロジェクトは、アートとランドスケープという異なる側面から、ひとつの場所を一緒につくり上げていくという、これまでにない新しい形式でした。
アーティストと対話しながらランドスケープを設計していくなかで、作品との出会い方、場所に宿る世界観、素材の表面がもつ手触り。そういった部分で、それぞれのアーティストならではの深い視点に触れることができました。建物の設計をしているだけでは辿り着かないような領域で、それをランドスケープに持ち込めたことは、得難い経験でした。
また、作品制作と並行して設計を進めるなかで、実際に制作のプロセスを体験する機会もありました。作品が持つ力強さや佇まいに触れるたびに、それがランドスケープの考え方に自然と影響していきました。お互いに刺激を与え合いながら、ひとつの場所を育てていくような感覚があり、そのプロセス自体がとても楽しく、豊かな時間でした。
インタビュアー
椿 玲子
森美術館キュレーター